これは、愛情じゃなくって、もっと別の何かでしょうか。
先生が生徒に対して持つような、生徒が、先生に対して抱くような。

突き放したい。
そして実際、彼にひどい仕打ちをします。

彼は、彼の友人に相談します。

「エゾエが、意地悪なんだ」

そうすると彼の友人は答えます。

「きっとエゾエは、お前の事がとても好きなんだよ」



そうです、わたしは彼の事がとても好きです。
だけれども、同時にとても嫌いです。
それは彼の無頓着な行動だったり、容姿だったり、言葉遣いだったりしますが、とにかく彼はわたしを苛立たせます。
なのに、彼の部屋でわたしは、自分の家のようにくつろぎ、自然体で、安心しきっているからこそ彼を罵り、落胆させます。

彼は、疲れたわたしのために食事を用意してくれる事すらあります。
お酒の飲めないわたしのために、グラスにオレンジジュースをついでくれます。
食後のアイスクリームだって準備してあります。

だけれども、彼は、わたしの目に頼りなく映り、しかもそれは事実なのです。
彼の着るスーツは、classとして伝わってこないのです。
そこに色気はなく、やたら皺や汚れだけが目につき、ため息が出るのです。


わたしが、世界で一番好きな人のスーツは、2種類ありました。
仕事のときに着ていたものは、美しい作業着でした。内側に潜めたものをみじんも感じさせず、淡々と仕事をこなしておられました。
後輩の結婚式へ出かける彼からは、まさにclassを感じました。いや、あのタイバーはあまりあアレですけど。

すきなひとだから、よく見える。わかっています。だけれどもあのお方は美しい。
意外と立ち仕事だから、姿勢も良い。ちょっと威張ったような立ち方ですけどね。


と、考えていたのですが、最近は王様のスーツどころか仕事着どころか普段着どころかジャージしか見ていません。
思い出が美化されているだけかもしれません。涼しくなったら結婚式によばれたりしないのかしらわくわく。